Powertapと秘密の部屋 後編

Powertapで採取されたデータは、付属の解析ソフト(PowerAgent7)で解析できる。
ひとまずお手軽なところでロードバイクに跨り、よく走っているコースで試してみた。
使用した自転車は下記写真のもの。

そして採取されたデータを解析ソフトにかけてみたのがこちら。

Powertapによって自分の走行中の出力が分かるようになったとき、自分の事前の予想と一番違っていたのが走行中の出力数値の変動の激しさだ。上記の画像でもデータは生のデータそのままではない。

最初、まだPowertapで走り始める前の初期設定の時、データの採取は細かい方がいいだろうと思い1秒間隔に設定し、パワーの表示間隔も1秒単位にした。しかしこれでいざ走ってみると走行中にパワーの数値がぴょこぴょこ変わって全然と言っていいほど参考にならない。400Wと表示された次の瞬間に200Wになっていたりする。

加えて路面の微妙な起伏や風の影響によってもパワー数値は数十W単位で上がったり下がったりしてまるで落ち着きがない。「目の前にパワーメーターがあるからできるだけ一定の出力を維持して走ろう」とか考えていた私はアホである。データの採取間隔と表示間隔を2秒に変えてみたが、状況は似たようなもの。
屋外の実走は、そんな机上で考えたことがそのまま通用するほどきれいな世界ではないことを思い知る。物事は、実際にやってみなけりゃわからない

・・・で、パワーはリアルタイムに見てどうこうするものじゃないんだな・・・と悟った。パワーは解析ソフトを使って後から解析するものだと。
パワーメーターを使ったことのある人には、これは極めて常識的なことなのだろう。しかし、これまで慣れ親しんできた速度、ケイデンス、心拍数と言ったものが、パワーに比べれば変動の少ないデータだったため、ついついパワーについても同列に考えてしまっていた。

パワーメーターを作っている人達は当然そんなことはよく分かっているので、解析ソフトには採取されたデータのサンプル数をいくつかまとめて平均化する機能が付いている。前掲の画像は5サンプルで平均化したもの。データ採取間隔が2秒なら、10秒単位での平均値、みたいなものと思う(検証はしてない)。ちなみにサンプルの採取間隔(Sampling Factor)と、平均化するサンプル数(Smoothing Factor)はNone〜120まで7段階で選択可能。

・・・で色々データをいじくり回していると、色々見えてくる。
前掲の画像からも色々なことが分かるが、ふとある部分を計算してみて、思っていたより空力が良くない事に気が付いた。
そこで、ほぼ平坦路に近く、かつ比較的速度と出力の安定している部分である6分40秒〜7分34秒までを拡大してみる。

途中ちょっとパワーが落ち込んでいるのは、わずかに丘になっている場所の段差を乗り越える際にクランクの回転を止めたため。
こういう時もプロならクランクの回転を止めたりしないんだろう・・・とは、このグラフを見た後で思ったこと。

この区間の平均時速は42.67kmで、平均パワーは370W(ちなみにかなりいっぱいいっぱいの走りだ)。この情報から、„qo—ÍŒvŽZの計算機を使ってCdAを弾き出してみるとCdA=0.317平方メートルになる*1

„qo—ÍŒvŽZのサイトにもあるように、ロード下ハンでのCdAはこれまで0.28平方メートルとして色々推計してきたのだが、どうやら私のフォームではそれに及ばないらしい。この計測がされたときの服装は普通の半袖Yシャツに裾のひらひらしたズボンだったのでその影響も無視できないが、仮にその時の自分がレーサージャージにレーパン姿だったとしても*2あと0.03以上もCdAが下がったとはとても思えない。
仮にこの時CdAが0.28平方メートルなら、パワーは37W節約でき、同じパワーなら時速44.4kmと1.73km/hスピードを上乗せできる計算だ*3

ロード下ハンでCdA0.28平方メートルというのはレーサージャージにレーサーパンツ姿、プロ選手のセッティングとフォームでようやく達成できる数値なのかも知れない。

Powertapを用いることでは他にも

  1. 自分が1時間維持できる出力は何Wくらいか
  2. TSUNAMIのCdAはいくつくらいか、ロードバイクよりどれだけ空力的に優れているのか
  3. n日間、自転車に乗らずにいると出力はどれくらい下がるのか

・・・などなど、色々な謎が解き明かせるのではないかと期待している。

己を知る」ことができるというだけでも、Powertapは既に安い買い物だったと思っている。いやむしろ、こんな計測機械を個人が所有できる時代に生まれたことに感謝の念すら感じる。こういう機械を生み出す技術や研究の積み重ねをしてきた先人達にもひたすら感謝感謝である。

Powertapは、今あるパワーメーターの選択肢の中でも一番無難かつ敷居の低いものではないかなと。SRM電池交換だけでディーラー送りで私のような軟派な自転車乗りには敷居が高すぎる(価格も高いが)。QUARQのCinQo Power Sensorはまだ先行き不透明で時期尚早な気がするし。
Powertapの弱点は、今更言うことでもないがその計測方式から宿命的に「リアホイールの選択肢に制限がつく」ということ。それがどうしても気に入らない人は他のパワーメーターを選ぶしかない。

・・・私自身は既に「買って良かったものリスト」の中にPowertapを追加した。

*1:タイヤの転がり抵抗はアスファルト路面の状態から0.006として計算。タイヤはフロント:Vittoria OpenCorsa EvoCXの23C、リア:MICHELIN PRO3RACEの23C

*2:自転車競技などに詳しくない人のために書いておくと、自転車競技の選手が着ているあのぴっちりと肌に密着するウェアは前面投影面積を少なくして空気抵抗を減らす効果があるのだ

*3:ちなみに別の日に採取した同じコースのデータでもやはりCdA0.31〜0.32平方メートルという計算結果が出ている